将棋や囲碁のプロに人工知能が勝ったとか、自動運転は間も無く実現するとか、最近なにかと耳にする機会が増えた「人工知能」という言葉。一方では人工知能がこのまま進化するとやがて人間の知能を超え、人間が逆に支配されるかも……といった危惧も聞こえてくる。そんな人工知能は、将来ゴルフを変えるのか。入門書としてぴったりな一冊を読みながら、考えてみた。

人工知能ってなに? 僕らの仕事を奪う? 人類を滅ぼす?

『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』は、人工知能の専門家による、一般向けの入門書といった内容。「人工知能ってそもそもなに?」という素朴な疑問から、「人工知能の現在」「人工知能は人類を滅ぼすか?」「人工知能の産業・社会への影響」といった、気になるトコロをシンプルに分かりやすく解説してくれている良書だ。

まずはカンタンに、上に挙げたような疑問に対する本書の回答を、内容を引用しつつ紹介していこう。

そもそも人工知能とは

人工的につくられた人間のような知能、ないしはそれをつくる技術

これが著者による人工知能の定義。だが、同時に著者は人工知能は「まだできていない」と指摘する。

人間の知能の原理を解明し、それを工学的に実現するという人工知能は、まだどこにも存在しない。したがって、「人工知能を使った製品」や「人工知能技術を使ったサービス」というのは実は嘘なのだ。
嘘というのは少し言い過ぎかもしれない。人間の知的な活動の一面をまねしている技術は、「人工知能」と呼ばれるからだ。

人工知能にはできることとできないことがある。ゆえに、なにができるか、なにができないか、なにが将来できそうか、そこがポイントになってくる。

人工知能の現在「ネコを見分けられるようになった」

「グーグルがネコを認識する人工知能を開発した」という一見すると何でもないニュースが、実は、同じグーグルが開発している自動運転車のニュースよりも、ずっと「本当にすごい」ことだとわかってもらえれば、本書はその役割を果たしたことになる。

ネコを認識する人工知能はなぜすごいのか。そこには著者が「50年来のブレークスルー」だという“ディープラーニング”という機械学習の存在がある。

ユーチューブから取り出した画像を大量に見せてディープラーニングにかけると、コンピュータが特徴量を取り出し、自動的に「人間の顔」や「ネコの顔」といった概念を獲得するのだ。

たとえば我々人間はネコを見ると「あ、ネコだ」と思う。決して、「4本足の動物で、特徴的な三角形の耳があり、尻尾があり、ヒゲが生えていて、俊敏な身のこなしで、ニャアと鳴く。ゆえに、ネコだ」というふうには認識しない。

画像: 人間だったら「あ、ネコだ」で済むが、機械にとってこの写真を見てネコと認識するのはカンタンではない

人間だったら「あ、ネコだ」で済むが、機械にとってこの写真を見てネコと認識するのはカンタンではない

今までは人工知能にネコをネコだと認識させようと思ったら、以上のようなデータをあらかじめ入力しておく必要があった。それに対してディープラーニングは、大量(たとえばユーチューブの画像)をインプットしておくことで、勝手にネコの特徴をつかみ、ネコを見たときにネコだと認識することができるというのだ(違っていたらすみません)。

著者は、ディープラーニングがもたらす人工知能の未来として、「言語理解」「知識獲得」といったところまでが視野に入っていると展望する。その上で

ドラえもんのように、人間と人工知能がまったく齟齬なくコミュニケーションできるような世界をつくるのは、実際にはかなり難しい。(中略)それよりも、予測能力が単純に高い人工知能が出現するインパクトのほうが大きいだろう。

とする。(ちなみに『ターミネーター』のような、人工知能が人間に対して反乱を起こすような未来は、『科学的な根拠は乏しいと言わざるを得ない』という。ホッと一安心といったところだが、『人工知能を持った昆虫サイズの小型兵器ができるとどうなるだろうか。悪意をもった人間(たとえばテロリスト)がこう言った技術を日常生活の場面に持ち込めば、非常に危険であろう』とも)

人工知能は人間の仕事を奪うか?

人工知能は、現在人間が行っていて機械が代替できない仕事を、どんどんこなすようになっていきそうだ。たとえば、
・広告、マーケティング
・医療、法務、会計、税務
・金融、証券、不動産
・製薬
といった、「人間じゃなきゃ!」と思えるような仕事も、人工知能が代わりに行うようになるかもしれない(『記事を書く』といった仕事も例外ではなかろう)。ただし著者は、何かの仕事がなくなれば、別の仕事が必ず生まれるという。

では、ゴルフ業界にはどう人工知能が影響するだろうか。考えられることは幾つかある。

1:クラブ開発

製造業の分野では人工知能が「新しい工程を『設計』できるようになる」かもしれないという。何十年後の未来に、我々は人工知能が設計したドライバーを手に、ティショットを放つかもしれない。

2:人工知能キャディ

画像: イ・ボミとの黄金タッグで知られる清水重憲キャディ。たとえ人工知能が猛烈に進化しても、人と人との絆だけは代替できない……はず

イ・ボミとの黄金タッグで知られる清水重憲キャディ。たとえ人工知能が猛烈に進化しても、人と人との絆だけは代替できない……はず

「データが多く、短期的なサイクルで回る最適化はコンピュータの最も得意とするところ」。人工知能がそのデータ分析能力でゴルファーのショットデータやコースの状況に応じて最適な番手や攻め方を助言する「A.Iキャディ」がコースに登場するかもしれない。

3:自動運転でコースへ

操縦士・運転士の大きな仕事のひとつは「おかしなことが起こっていないか」という「異常検知」である。(中略)この仕事をコンピュータができるようになると、運転を人工知能が行うことも、遠隔で操作することも、いまよりずっと簡単になる。

「車で食事に行ってお酒を飲み、車で帰ってこられるとしたら、こんなに快適なことはない。」と著者は言う。まったくもって心の底から同感だ。人工知能がゴルファーにもたらす未来。それは、「ゴルフ場でホールアウト後に仲間とお酒を飲んでも、車で帰ってこられる未来」だったりして。

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