2014年、聴覚障害をもちながら作曲家として活動していた佐村河内守氏。「現代のベートーベン」と称され、一躍時の人となったが、作曲家の新垣隆氏が自分は佐村河内氏のゴーストライターだと暴露。聴覚障害への疑惑も浮上し、謝罪会見を開くまでの社会現象となったのは記憶に新しい。それ以降メディアの前から姿を消した佐村河内氏の姿を、ドキュメンタリー映画の雄・森達也監督のカメラがとらえ続けていた。6月4日の公開から1カ月が過ぎ、今なお連日映画館が大盛況だという話題作をレポートする。

佐村河内氏、新垣氏、「映画そのもの」なにを信じればいいんだ⁉︎

映画は佐村河内氏の自宅シーンを中心に構成される。カーテンを引いた部屋で、妻と二人で暮らす佐村河内氏。その姿は寂しげだ。佐村河内氏は、聴覚障害は科学的に証明された事実であると診断書をカメラに示し、「確かにこれは素人には書けないだろうな」と納得させられるほど詳細な、ゴーストライターである新垣氏への作曲「指示書」も示す。

観客の多くは、最初こう思うだろう。「佐村河内氏は、本当に耳が聞こえなかったんだ! そして、作曲のプロデュースも行える、立派な音楽家なのだ」と。そして、困難にも負けずに夫を支え続ける妻との夫婦愛には、胸が熱くなりもするはずだ。騒動に安易に乗っかった己を恥じるかもしれない。

しかし、それだけではない。この映画はどこか「変」なのだ。たとえば、佐村河内氏の耳が(普通に)聞こえているように思えてしまうシーンがある。たとえば、佐村河内氏の「釈明」が、どう考えても苦しく聞こえてしまうシーンがある。心情的には佐村河内氏を信じてあげたい、けれど、信じきることができない。監督は、観客を宙吊りにしたまま、クライマックスまで運んでいく。そういった意味で、この映画はドキュメンタリーでありながら、十分なサスペンス要素を持っていると言える。

画像: 左が佐村河内氏、右が森達也監督。観客はやがて、佐村河内氏も、監督すらも信じられなくなってくる。いったいなにが真実なんだ⁉︎ www.fakemovie.jp

左が佐村河内氏、右が森達也監督。観客はやがて、佐村河内氏も、監督すらも信じられなくなってくる。いったいなにが真実なんだ⁉︎

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まさに「FAKE」のタイトル通り。観客は誰を、なにを信じればいいのか、どんどん分からなくなってくる。その状態で、本作のポスターに大書された「衝撃のラスト12分間」へと映画は突入していく。ここから先は、映画館でその目でなにが真実か、確認するしかないだろう。「衝撃」という言葉に偽りはない。その後になにを信じるかは、観客ひとりひとりに委ねられる。

佐村河内氏の話題は、多くの人にとってすでに「そういえば、あったね」という過去のものになっている。それでもなお、本作は2016年の今、観る価値が十分にある作品となっている。ゴルフ場のレストランでゴルフ仲間に話す会話ネタとしても最上。劇場で観ることを強く勧めたい作品だ。

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