ゴルファーならば、「我が子をプロに!」と思う人も少なくないだろう。では、実際のところどうやったら子どもをプロにすることができるのだろうか? 米国留学歴を持ち、ジュニアゴルファーへの指導経験も豊富な中井学プロに聞いた。

【その1】お父さんが「教えない」

「日本の現状を見ていると、子どもがプロになれるかどうかは、本人の資質に加えて親(保護者)の資質に依存してしまっているように感じます。極端なことを言えば、親が教えるのが下手だったら、子どもはプロになれる可能性が低くなってしまう、あるいは遠回りをすることになってしまうわけです」

もちろん、「親が教えたらプロになれない」わけではない。ただ、たとえば宮里三兄弟は全員プロだが、父の優さんはティーチングプロだ

「アメリカの場合、子どもはまずコーチに預けられます。ゴルフを教えるのが専門のプロの元で基礎から技術を学ぶことは、先々子ども才能を開花させる一番の方法だと思います」

【その2】なるべくコースでゴルフを覚えさせる

「ゴルフは基本的にカップの近くから覚えたほうがいい。まずはパター、アプローチ、そこからショットへと進んでいくのが正しいやり方です。日本では環境を整えるのがまず大変なのですが、アメリカの場合、子どもたちはいきなりゴルフコースに連れて行かれ、そこでゴルフを覚えます。プレーしなくとも、グリーン周りでアプローチやパターで遊ぶ。絶対的な小技の感覚は、そのような遊びの中で身につけられるんです」

コースで遊びながらゴルフを覚えさせることができたら、それが一番

【その3】長所を伸ばす≒個性を消さない

「たとえばフィル・ミケルソンは右利きですが、お父さんのゴルフスウィングを眼の前で真似しているうちに、『左打ち』になりました。たとえばダスティン・ジョンソンは超がつくほどのシャットフェースでスウィングします。これらはセオリーからは外れているかもしれませんが、彼らの個性であり、それが長所にもつながっています。長所を伸ばすとは、個性を消さないことでもあるんです」

こちらアマチュア時代のミケルソンのスウィング写真。この個性的なスウィングは、父の姿を模倣することで生まれた

【その4】他スポーツを経験させる

「アメリカのスポーツはシーズン制。たとえばゴルフのシーズン、アメフトのシーズン、バスケットボールのシーズンなど、競技ごとに試合が開催されるシーズンは決まっています。なので、ゴルフが専門のジュニアも、シーズンオフには他のスポーツに触れられる環境があるのです」

「たとえば殿堂入りプレーヤーのヘール・アーウィンは大学時代、フットボールでオールアメリカンに選出され、同時にゴルフの全米学生選手権でも優勝を果たしています。必ずしも、ゴルフだけをやらせるのが上達の近道ではないのです。僕自身アメリカ留学時代にフットボールを経験しましたが、あのボールの投げ方はゴルフの腕の使い方に通じるヒントがあります」

尾崎将司は甲子園優勝投手で、元プロ野球選手。プロ野球を3年で引退してからゴルフに転向し、のちに大活躍した。ゴルフ以外のスポーツを経験することは遠回りではない。写真は尾崎が初優勝した1971年の日本プロ

「ゴルフしかしていないと、ゴルフに行き詰まった時に逃げ場がありません。他のスポーツを経験することで、基礎体力の向上だけでなく、ゴルフに役立つヒントが必ずや得られると思います」

【その5】スコアを叱らない

「これがもっとも大切なことですが、子どものスコアを叱らないことです。100を打つのは悪いことでは当然ながらまったくないし、70を切ったからといって人格的に優れていることの証明にはなりません。それなのに、いいスコアを出せば褒め、悪いスコアを出せば叱る、といったことをすると、子どもはスコアのことしか考えなくなり、やがてゴルフを好きじゃなくなったり、スコアをごまかしたりするようになる危険性もあります」

アマチュア時代の石川遼のゴルフは、プレーする楽しさに溢れていた。親が教えるべきはなにをおいても「楽しさ」なのかも

「ルール違反やマナー違反は叱るべきです。約束を破ったり、学校での勉強をおろそかにした時も叱っていいでしょう。しかし、“上手い・下手”や、スコアの“いい・悪い”を叱るのは絶対にやめてください」

子どもになにかを強制するのではなく、子ども意欲を伸ばすサポートをし、環境を整える。当たり前だけど、親ができるのはそんなことだけなのかもしれない。